
大上巧真・彌永ゆり子・西田彩乃 3人展「Magnet・Kit」
大上巧真・彌永ゆり子・西田彩乃 3人展「Magnet・Kit」を開催いたします。
会期は10月18日(土)〜 11月02日(日)、会場はAWASE gallery(新宿)、どなたでも予約なしでご来場いただけます。
—
【ステートメント】
今回の展覧会タイトル「Magnet・Kit」は、出展作家の一人である西田さんのInstagram投稿(5月16日)から引用しました。
その投稿には「マグネットのキット作成例」とあり、特に本人からその意図について詳しく聞いたわけではありません。
けれども、そのフレーズが妙に頭に残り、展覧会のタイトルにしようと決めました。
「Magnet」と「Kit」という二つの語の組み合わせには、引きつけ合いと構築、つまり関係をつくる運動のような響きがあります。それはどこか、私たちの「生活」のあり方にも通じるもののように思えたのです。
この展覧会を考えるうえで、その「生活」という言葉に少し寄せてみたい。
「Magnet」は引きつけ合う力を、「Kit」は組み合わせや再構成の可能性として私に想像させた。
それは、私たちの生活のあり方にも重なっていく。日々の営みは、無数の要素が引き寄せ合い、離れながら、絶えず組み替えられてしまう。実際、三者の作品は、それぞれ異なる形で「生活」の取り巻きや手垢のようなものを起点としながらも、それをいったん引き離し、もう一度構築し直そうとしている。
しかし「生活」から離れることは、生活を捨てることではなく、そこに新たな視点や構造を導入するための「距離」を考える行為でもある。
そのような態度は、「絵画という形式」への向き合い方にも表れているようにみえる。
三者はいずれも、絵画という形式を意識しながらも、そこからわずかに距離をとるように制作しているのではないか。
例えば異なる要素が出会うとき、そこには空隙が生まれる。
その空隙こそが、作品が形を取り始める場所であり、表面と表面が触れ合う接地面には、緊張と均衡の感覚が宿る。
三者は、その関係によってどのように支えられているか、もしくは保たれているかをきわめて自覚的に捉えている。
このような態度を、リズムや関係、価値体系そのものを組み替える運動(内在的な駆動)としても考えてみたい。
運動とは、何かを改善したり、明確な方向を定めたりすることではなく、その都度、形や関係がわずかにずれていく過程そのもののことだ。
故に、そこには一つの目的に収束しない働きがある。
その動きは、感情や意志だけではない。
素材や構造、関係のあいだで生じる力としても存在している。
方向を定めず、それでも確かに運動し続けている。
そのような運動のあり方は、
私たちの「生活」にもすでに織り込まれている。
生活とは、静止した形ではなく、絶えず組み替えられながら、世界と関わり続けるひとつの運動でもある。
—
アーティストプロフィール
大上巧真 / Takuma Oue
「yet untitled」/1305×930×33 mm/2025
大上巧真 / Takuma Oue
2000 大阪府生まれ
2023 京都芸術大学美術工芸学科油画コース卒業
2025 京都芸術大学大学院修士課程芸術専攻油画領域修了
主な展覧会
- 2025 「マーク・メイキング」タカ・イシイギャラリー 前橋(群馬)
「Up_03」MtK Contemporary Art(京都) - 2024 「ひたしとく」GALLERY GARAGE(京都)
「常行三昧 Jogyo Zanmai」A-LAB(兵庫)
「東 京都 展 The Echoes of East Kyoto」WHAT CAFE(東京) - 2023 「ウサギ・ハチドリ・ホムンクルス〜新しい地平の作り方〜」MEDIA SHOP(京都
作品・コンセプトについて
自身の身体と外界との境界をめぐる感覚を起点に、筆を使わず素手で油絵具を塗る絵画制作を以前行なっていた大上ですが、そこから発展する形で近作ではコラージュを取り入れた抽象絵画と、パフォーマンス的な要素を含めた立体制作の二つでそれぞれの可能性を探求しています。
大上は自身のペインティング作品を「威嚇」という言葉で表現しています。
キャンバス上では赤や黄の鮮やかな色彩が共存し、衝突して混じり合うとともに、画面を縦横に貫く線はエネルギーに満ちています。そこに円形に切り取られた石の写真が貼り付けられ、異質な存在として絵画空間に点在しています。
観る者に強烈な印象を与えるこうした諸要素は、捕食者から身を守るために生物が作り出す警告色を連想させ、視覚表現が与える精神的な作用、またそれに対する根源的な反応へと私たちの意識を立ち返らせます。
色相の異なる複数の絵画が展開されると作品の力強さがより際立ち、その効果は三次元的な体験へと広がっていきます。
彌永ゆり子 / IYANAGA Yuriko
「flotsam #4(stripe hose)」/200×300×90 mm/2022
photo by Haruka Oka
彌永ゆり子 / IYANAGA Yuriko
1991年 神奈川県生まれ、以降を京都で過ごす
2010年 京都市立銅駝美術工芸高等学校 美術工芸科 陶芸専攻 卒
2016年 京都市立芸術大学 美術学部 美術科 油画専攻 卒
2018年 京都市立芸術大学 修士課程 美術研究科 油画専攻 修了
主な展覧会
- 個展
2025「parallel realities」 G foundation collection Tokyo、東京
「layered forms」 ARTRO、京都 - 2024「PLAY GROUND」 THE THOUSAND KYOTO、京都
「existence.img」 KUNST ARZT、京都 - グループ展・フェア
- 2025「令和6年度下京渉成小学校作品展」 下京渉成小学校、京都
「Black Point」 H.art1、ソウル
「Art Rhizome KYOTO「逆旅京都2」」サイツキョウト、京都
作品・コンセプトについて
私は、初期から一貫して「デジタルで描いた絵」をどのように美術作品として見せるか、という問いに取り組んできました。パソコンで絵を描くことは、私の日常の一部であり、インターネットの黎明期に触れた未知のものや新しい技術に心を動かされた経験が、今でも私の制作の原動力になっています。その頃のインターネットはまだ無限の可能性を秘めていると感じさせるもので、あの時の興奮が今でも作品に影響を与え続けています。
また、最近ではインターネットの普及により、物を手に入れる感覚が好きなイメージをウェブ上で見つけることと近い感覚になってきていることに気づきます。画像情報から選んだものが、実際に自分の手元に届く。このような感覚はどこか不思議で、私の作品制作にも影響を与えています。物理的に手に取ることと、画像として目にすることの境界が曖昧になり、視覚的な体験としての「物」や「イメージ」に対する考え方が変わってきているのです。
私は、幼少期の遊びの延長として、インターネットと深く関わりながら生きてきました。その中で、日々進化するテクノロジーや、ネット上で見つけた工業製品、園芸用品、または無数のイメージを素材として取り入れ、私自身の「今」と「昔」の視点を表現に織り込むことを試みています。デジタルと物質的な世界が交差する中で、新しい形の作品を作り出そうとしています。
西田彩乃 / Ayano Nishida
「ぼやけた壁のある部屋(枝)」/455×652×20 mm/2025
西田彩乃 / Ayano Nishida
1999年生まれ
2023年 京都市立芸術大学 美術学部 美術科 版画専攻 卒業
2025年 京都市立芸術大学大学院 美術研究科 修士課程 美術専攻 版画 修了
主な展覧会
個展
2025年「white, noise, flowing time」スペースぱせか(京都)
2024年「雷の落ちた部屋」芝田町画廊(大阪)
2023年「テーブル越しの光景」ANTIQUE belle GALLERY(京都)
グループ展
2025年「版画旅行20」ギャラリーモーニング(京都)
「シン・ハンガノミリョク展」芝田町画廊(大阪)
「grid next:Emerging Artists Showcase 2025」biscuit gallery・AWASE gallery・On(東京)
2024年「版画旅行19」ギャラリーモーニング(京都)
「PORTO DI STAMPA 2024」アートゾーン神楽岡(京都)・B-Gallery(東京)
「ASYAAF2024」旧国立劇団ペクソンヒジャンミノ劇場(ソウル)
作品・コンセプトについて
自分と他者の距離感や存在感について、部屋、窓、花、机の上のコップ、などのモチーフを通して考え、シルクスクリーンの技法を用いて絵画を作ることを試みている。
例えば、部屋で花を見て、その表面を観察したり、その花の持つ時間や感触などについて考えを巡らせる。そうしていると、思考は行ったり来たりを繰り返し、花というものは私の中で分解され、全てがあって、同時に全てがないような状態にバラバラになってしまう。そうして、部屋に閉じ込められたものたちはバラバラの状態となり、その輪郭線同士を交わらせながら、部屋の内側を回遊し続けている。それらのイメージのメモを取るように線を引き、絵画を作っている。
版画が絵画と異なる点は、版画は絵画と比べて流れる時間が断片的であることと、物質として存在感が薄いことである。また、私は版画の技法を用いて絵画を制作するために「物質性」「空間」「時間の流れ」の要素が重要だと考えている。
まず、絵画には、支持体の表面に奥行きのある空間が見えなければならないと考えている。イメージを描くことで空間が発生し、また、イメージを失うことでその空間は広がりを見せる。そして、レイヤーを重ねていくことで、その表面から時間が読み取れるようになる。絵画は筆致を重ねることで時間を積層させていくが、版画では版を介してレイヤーを重ねるため、時間の流れが断片的になる。そこに削りのような物理的な作業を加えることにより時間が連続し、分かれていた版が繋がりを持ち始め、絵画的な時間が生まれるのではないかと考えている。
—
【開催概要】
大上巧真×彌永ゆり子×西田彩乃
「Magnet・Kit」
会期:10月18日(土)〜11月2日(日)
時間:12:00〜19:00
休廊:月-火
入場:無料
会場:AWASE gallery(新宿)
〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目32−10 松井ビル8F
主催:AWASE gallery
お問い合わせ:info@awasegallery.com